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あまり見なおしてないけど、勢いで書いてしまった。
大石おめでとう!
サイト復活のときに「後日お返事します」とか言いつつ1カ月たってましてすみません。
これじゃ後日じゃなくて後月ですね…
また時間を見つけるようにします。
それでは、続きから大石の誕生日のお話です。
「好き」のほかに必要なもの
コンテナの上に寝転がり、携帯を取り出す。受信フォルダの一番上、大石からのメールを眺める。
『分かった。補習で遅くなると思うけど急いで行くよ』
俺が今日の昼休みに送った、
『今日の放課後、待ってるから!』
というメールへの返信だ。
「どこで?」とか「どうして?」なんて聞かなくても分かってくれることが嬉しくて、思わず口元が緩む。
大石はいつ頃来るんだろう。部活終わりの俺と補習終わりの大石だったら、ちょうどよく時間が合うんじゃないかと期待していたが、どうやらハズレだったらしい。とうに待ちくたびれた俺は、もう何度もそのメールを眺めている。
……遠い街に通ってるんだもんな。
昼休みに直接伝えられなくなった距離はさみしいけれど、こんな風に大石を待つのも悪くない。
そんなことを考えていると、ふとコンテナのそばに人の気配がした。
ようやくお出ましのようだ。
「早く上がって来いよ、大石」
コンテナから下を覗くと、やっぱりそこには大石がいた。
昔と同じ光景だった。反省会の時、副部長の仕事がある大石の方が到着が遅くて、いつもこうやって、やって来た大石を見ていた。
そういえば俺たちの始まりも、俺が下で自主練習をする大石を見つけたからだったっけ。
「待たせてごめんな」
コンテナに上り、俺の隣に腰掛けた大石が言う。
「こっちこそ、急に呼び出してごめん」
「いや、呼び出してくれてありがとう」
当たり前だけど、大石には呼び出しの用件はばれていた。
「うん。誕生日おめでとう、大石」
その言葉に、大石は満足そうに微笑んだ。
大石は少し言い出しづらそうに口を開く。
「昨日会った時に何も言ってくれないからさ、ちょっとだけ……」
「忘れてると思った?」
俺の問いに大石が苦笑いする。
休日だった昨日、俺たちは二人で会っていた。今日が平日だから、昨日のうちに誕生日を祝うと大石は考えていたのだろう。だけど、俺は誕生日のことに触れないままだった。
「ほんのちょっとだけ、な」
「俺からの愛を疑ったってわけ?」
別に怒ってはないけど、わざとむくれて見せる。しかし、大石にはその演技は見破られていたようで、
「なにも言わない英二も悪い」
と笑って答えた。
「どうしても今日言いたかったんだよ」
今日は少ししか会えないけど、昨日じゃ嫌だった。今日じゃなきゃ嫌だった。当たり前だけど、大石の生まれた日は今日だけなんだから。
「分かってるよ。大丈夫、英二は覚えてくれてるって信じてたからさ」
「……さっきは忘れられたかもって言ってたのに」
と、またいじけて見せる。すると、
「だからほんの少しだって」
と大石が困ったように弁解し、ちょっとだけ勝ち誇ったような気分になる。
いつも冷静な大石なのに、俺に対して焦ったり、困ったりする様子が好きだった。大石も、俺がいつもわざとやってるって気付いてるんだろうけど。
「それでさ」
気を取り直して、本題だ。
「これ、プレゼント。誕生日おめでとう」
カバンから小さな包みを取り出し、大石に渡す。
「ありがとう」
受け取った大石の笑顔が本当に嬉しそうで、俺も嬉しくなる。
「ね、開けてみてよ」
大石を促す。
「うん。なんだろう?」
と、包みから出されたのは、ダークブラウンの革で作られた定期入れだ。
「これなら毎日使えるだろ?」
と得意げになる。大石が通学用カバンに付いていたおまけの定期入れを使ってることは知っていた。
「ああ。早速使わせてもらうよ」
大石はそのおまけの定期入れから定期を取り出し、俺からのプレゼントへと移しかえた。
高校生が持つにはシンプルすぎて大人っぽいデザインが、大石にはよく似合っていた。自分の見たては間違っていなかったと誇らしい気分になる。
「英二はすごいな」
大石が言う。
「ん?」
「だって英二の選んでくれるものって、いつも俺の好みのものばかりだから」
「すごいだろ? お前のことなら何でも分かるもん」
俺の好みと大石の好みは全然違うけど、なんでか大石の好きなものはすぐに分かる。俺の特技だ。……大石相手にしか意味がないけど。
「それなら、俺も英二のことは何でも分かるよ」
と、大石が得意げに笑う。張り合うように言う大石が、いつもの大石らしくなくて子どもっぽい。
大石も、俺にしか意味のない特技を持っていたみたいだ。なんだか恥ずかしくて、胸がくすぐったいような気がした。
「毎日使ってね」
「もちろんだよ」
「それでさ、毎日俺を思いだしてね」
なーんてね、と冗談っぽく言おうとすると、大石が俺の言葉を遮った。
「そんなの、英二を思い出さない日なんてないのに」
「ねえ、大石。実はもう一つプレゼントを用意してあるんだけど」
「え、本当に?」
大石が驚く。
半分は本当で、半分は嘘だ。『用意』はしてこなかったから。思いついたのはたった今だ。
「だからさ。……目、つむってよ」
大石がまた驚いたように目を見開き、ぽっと頬が赤くなった。『もう一つのプレゼント』が一体何なのか分かったのだろう。
プレゼントはキス……なんて、姉ちゃんの昔持ってた少女漫画みたいで恥ずかしい。
でも、大石は何も言わずにすっと目を閉じてくれた。
目を閉じた大石をまじまじと見る。自分からキスをする時に、待っている大石を眺めるのが好きだ。
ああ、格好良いな。
恋人の欲目かもしれないけど、こんな格好良いヤツめったにいない。
唇の位置を確認しながら、目を少しずつ細める。目をつむって大石の唇にちゅっと吸い付くと、大石の唇が追いかけてきた。
舌で唇をつつくと迎え入れてくれたので、歯をなぞっていく。
大石って歯並びがいいなと、ふと思った。すると、急に大石の舌に俺の舌が絡み取られる。そのまま口の中にぐっと押し込まれ、口内を隅々まで撫でられる。
「んっ……」
大石のスイッチが入った、と分かった。
俺からのプレゼントなのに、このままだと大石にされるがままになってしまう。それではいけないと、俺も負けじと応戦する。
心臓がドキドキする音が聞こえる。
どうしてだろう。合間にちゃんと息継ぎをしてるのに、こんなに息が切れる。こんなに苦しい。
大石とのキスはいつもそうだ。
キスをしてたら段々と訳がわからなくなっていって、どこかに連れていかれそうになる。
大石が熱っぽいため息をつく。ふいに唇が噛まれ、背中がぞわりとした。
ねえ、大石。
俺たちこのままどこに行っちゃうのかな。
──分かんないけど、連れてってよ、大石。
その瞬間、急に大石から唇を離された。
あまりにあっけない終わりに驚き、思わず「え?」と呟く。
熱っぽくうるんだ大石の瞳が、ぐにゃりと切なそうに歪んだ。
だけどそれは一瞬だけのことで、大石の表情はすぐにいつもの落ち着きを取り戻した。
「……プレゼントありがとう、英二」
大石の声が俺の耳に届く。いつもと同じ声色のようで、でも全く違うようだった。
「……満足、した?」
おそるおそる尋ねる。
大石は一瞬沈黙した後、
「大満足だよ」
と答えた。
嘘だ。
本当は足りないくせに。足りなくて足りなくて足りなくて堪らないくせに。
そう責めようとしたけど、言葉が出てこなかった。
「それなら、よかった」
と、俺も嘘をついた。
恋人同士になって、手を繋いで、キスをして、とんとん拍子にここまで進んできた。
だけど、あと一歩がいつまでも進まない。
きっかけがなかった──いや、きっかけを避けてきたんだ。今みたいに。
少しずつ呼吸が整っていく。いつの間にか、すっかり唇は渇いていた。
コンテナの上に置かれていた定期入れを、大石は大事そうにカバンにしまった。
「本当に嬉しかったよ」
俺の顔を見ないで大石が言った。
「……うん」
「英二」
「うん?」
「好きだよ」
「……そんな難しそうな顔で『好き』とか言うなよ」
冗談めかして言おうとしたのに、自分の口から出た声はひどく冷たくて驚いた。
大石、ごめん。責めるつもりじゃないのに。
大石が俺の肩に顔をうずめる。
大石は何も言わなかったけど、俺を抱きしめた腕があたたかかった。
どうして俺たちは前に進めないままなんだろう。
何かが邪魔をしている。
さっきのキスみたいに、夢中になって、もう何が何だか分からなくなって、そのままどこかに行ってしまいたいのに。
だけど、怖い。
勢いに任せただけの関係になってしまったら、今までの俺たちが変わってしまいそうな気がして。一旦そうなってしまったら、もう後には退けない気がして。
「おめでと、大石。俺も好きだよ」
大石が好きだ。でも、先へ進むにはそれだけじゃ駄目なんだ。
「だからさ、大石」
先へ進むには何が必要か、一緒に探そうよ。
意を決して、その言葉を口にする。
「俺の誕生日の時にも、同じプレゼントちょうだい」
大石が顔を上げ、じっと俺を見た。そして、真剣な表情のままゆっくりと頷く。
「……ああ、分かった」
「楽しみに待ってるから」
7ヶ月後、俺は「これで満足」なんて言ってやんないからね。
口には出さなかったけど、大石は分かっているだろう。
「最後にもう一回ちゅーしようよ。せっかくの大石の誕生日なのにさ」
と明るく提案してみる。すると、大石もにこりと笑った。
「……今度は、俺からしてもいい?」
大石が静かに尋ねた。俺は目をつむって、大石の提案を受け入れたことを示す。
優しい吐息が唇に触れる。そのまま大石の唇が触れ、長い時間がたった後、ゆっくり離れていく。
俺も大石ももう大丈夫だった。
「英二からキスされるのもいいけど、自分からするのもやっぱりいいな」
「ふーん?」
「待ってる英二を見られるのがいい」
「あ。俺もさっき思った」
じゃあこれからは順番にキスをしようか、なんて他愛もない会話をしながら、俺たちの影がゆっくりのびていく。
ゆっくりゆっくり、夕日が沈んでいく。
大丈夫、何も焦らなくていいんだって、そんな気がした。
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