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短文「夏が作る境界線」
大石が脚フェチだねっていう、短い話です。
そのうちサイトに載せようと思いますが、とりあえずブログの方へ〜

続きからどうぞ!


夏が作る境界線


 なめらかで、何も遮るものがないような、彼の脚を指でなぞる。
 なぞられた脚はぴくりと動き、喉の奥でくくっとくぐもった笑い声が響いた。
「止めろよ、くすぐったい」
 咎める声は決して本気で怒ってるのではなく、むしろどこか楽しげに聞こえた。
「止めないよ」
 と、下着だけしか身につけていない英二の肌にもう一度触れる。肩、腕、お腹、そして、脚。
 アクロバティックプレイをする英二が着用しているスパッツ。
 そのせいで、彼の脚に残る日焼け跡は、俺や他の部員のものよりもはっきりとした跡になり、肌に線を引いたような境界が生まれる。
 去年の夏にその跡をなぞりながら、まるで夏が作る境界線みたいだ、なんて思ったことが懐かしい。その内側の領域に、俺だけが入り込める境界線。
 秋が来て冬が来て、もう春になろうとしている今は、それは跡形もなく消え、英二の脚はただ遮るものがなく真っ白に伸びている。
「……残念? なくなっちゃって」
「ん? 何が?」
「日焼け跡。……好きなんだろ、大石」
 今まさに考えていたことを言い当てられたことに内心驚き、そして気まずさに黙り込む。
 そんな俺を見て、英二は可笑しそうに笑った。
「変態、脚フェチたまご頭」
「……ひどいな、それは」
 英二の暴言に苦笑いすると、
「全部ほんとのことだろー?」
 と、しれっと返される。うん、まあ、確かに。否定はできない。……新しい髪型、気に入ってるんだけどな。
「そのうちまたできるからさ、待っててよ。大石が好きな、ひ、や、け、あ、と!」
 と話しながら、ひょいっと脚を上げて見せつけてくる。
「それは、どうも……」
 なんというか、いたたまれない気持ちになるのはなぜだろうか。
 自分の性癖が恋人にバレていた恥ずかしさ。経験はないけれど、エロ本が母親に見つかった時の気持ちはこんな風なのだろうか。
「楽しみじゃないの?」
「……楽しみです」
 なぜか敬語になってしまったが、嘘はつけずに正直に答えた。
 すると、英二は先程のふざけた様子から、ふと真剣な表情へと変わった。
「俺もさ、楽しみだな、夏が」
「うん」
「去年は、先輩と試合に出て苦戦する大石を見て、俺も悔しかった」
「うん」
「だから、今年は全部の試合で、俺が大石の隣に立つって決めたんだ」
「英二……」
「だからさ、大石も楽しみにしててよ。俺とのダブルスも、日焼け跡も、ね。」
 とまた少し茶化して言う英二を、堪らず抱きしめた。
「最後の夏になるね、大石」
「そうだな、英二」

 俺たちはきっとコートの上に立っている。焼けるような日差しに焦がされて、少しずつ英二の脚に境界線が残っていく。日を追うごとに、少しずつ濃くなって。
 俺たちがいつかテニスを止める日がきても、きっと英二の白い脚を見る度に暑い夏を思い出すのだろう。
「ねえ、もっかいしよ、大石」
「奇遇だな。俺も、同じこと考えてた」
 英二が悪戯っぽい視線で俺を捉え、
「ほら」
 と先程のように脚を見せつけるように持ち上げた。
 からかわれているような英二の行動が少し悔しくて、何も跡のないその白い肌に、まずは赤い跡を残してやろうと食らいつく。


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